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第六季       紅妖夢

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第六季       紅妖夢

「メル・・・私の剣は、時空すらも斬ることができた。切れないものはほとんど無いが

お前との縁だけは斬れそうにないな。」

 

 

窓のない通路で言ってくれた言は、私の胸に深く刻み込まれた。

運命の人、約束の人、それは妖夢さんに他に考えられなかった。

 

 

 

ひとつの窓が見え始め、旅の終わりを感じた。

「運命を変える悪魔に会わなくても・・・

私はそこまで言いかけると、声が聞こえた。

「お嬢様には・・・指一本触れさせない!!

地獄の奥底から搾り出したような声・・・

「ああああああああああああああああぁぁぁぁ・・・・・!!

数え切れないほどのナイフがすごい勢いで迫っていた

「だめぇぇぇぇ!!!」

 

 

...

 

せめて、もう少しいい言葉を言えばよかった。

そうすれば、運命をかえることができたかもしれない。

私は時の止まった世界で、そんなことを考えていた。

ナイフが迫ってきたとき、私は叫んだ。同時に胸にしまってあった

チルノさんがくれたカードが輝き、全てが止まった・・・

「パーフェクトフリーズ・・・」

音もなく色もない。迫り来る無数のナイフはもはや眼前まで迫り。

避ける事など到底できない、時の止まった世界でも叶わない事だった。

「もう少し手前なら、窓から逃げられたのに・・・

ふと気がつくと、自分が人間と同じくらいの大きさになっていることに気がついた。

「せっかく・・・一緒になれたのに・・・

空間にひびが入り始め、スペルカードは次第にぼろぼろになり始めた。

「これが、私がかえた運命ですね・・・」

私は妖夢さんの口にそっと口付けをし、目を閉じた。

「・・・

 

 

貴様ぁぁぁぁぁ!!!

無数のナイフなどに目もくれず、相手しか見なかった。

ナイフが体をかすめたかもしれない,ささったかもしれない。

そんなものは気にもならなかった。

「断命ッ!!  おおおおおおおおおおおおお」

剣に込めた霊力が巨大な刃となり相手の命を断たんと振り下ろされた。

相手の投げるナイフをすべてはじきとばし、女もまた剣撃をうけ玩具のように吹き飛んだ。

地面に何度か打ち付けられながら転がり、闇の奥へと消えていった。

「メルっ!!

窓から差し込む光に照らされ、メルは力なく倒れていた。

 

...

 

 

悲しそうな顔・・・泣かないで。

妖夢さんは曇りのないまっすぐな瞳には雲がかかり、いまにも雨が降りそうだ。

「死んじゃダメだ!! せっかくここまで来たんじゃないか。」

怒ったような声で叫ぶ妖夢さん・・・

「ごめんなさい・・・」

「謝るな、運命を操る悪魔を倒し、霧を止め、夏を取り戻すんだ。」

 そして、君は生きるんだろう。

「妖夢さん・・・知ってたんですね。私が、死ぬ運命にあるってこと。

運命を操る悪魔がいるって聞いたとき、もしかしたら死ぬ運命を変えられるかもしれない、

妖夢さんとずっと一緒にいられるかもしれない。そう思ったんです・・・

でも、やっぱり運命は変えられなかった」

「そんなことない!!君は・・・!!!

「そうですね・・・病気で死ぬはずだった私・・・でも、最期に妖夢さんの役にたてた。

運命は変えられた・・・

「そうだ!! 運命は変えられる。だから生きるんだ!!

「生きたいですよ・・・でも、これ以上生きられない。妖夢さん・・・

ずっと一緒にいたかったです。最期に妖夢さんの手の中で・・・よかった。

「死ぬとか言うな!! そんなこと言っちゃダメだ!! 

・・・ありがとう、妖・・・夢・・・・・さん

「メルッ!! メル・・・?・・・メル!!メルーーーーーーーーーーーーーー!!!」 

 

 

...

 

まだ、間に合う。まだメルの体は温かいんだ。

間に合う!! 死んでない!! 死なせはしない!!

 

 

 

ドアが勢いよく開いた。私の部屋にこんな無礼な入り方をするのはどこのどいつだ?

「運命を変えることができるのか?」

ツカツカと部屋に入ってきて、唐突にきいてきた。

「そうね、できなくもないわ。」

グッタリとした妖精を抱いた無礼者は、敵意の視線に希望の光を宿した。

 

 

運命を変えることができる!!

「死の運命を変えることはできるのか?

「そんな運命変えても面白くもなんとも無いわ。

「できるのか?

「・・・ッ、できるわよ。

「なら!!

「運命の歯車を変えることはできる。

止まりかけた歯車を動かす事はできる。

止まったしまった運命の歯車を動かすことはできない。

止まった歯車はすぐに崩れ、崩れ去った歯車はもはや歯車ではないのよ。

「そうか・・・

運命は生きているものが持つもの・・・

もはや死んでしまったものに運命など存在しない。

まだ温かいメルの体は、次第に温度を下げていった。

「ところで貴方はだれ?なにをしに来たのかしら?」

「私は・・・」―――何をしにきたんだろう。メルと会い、メルの運命を知った。

運命を変える事ができる悪魔の存在をしり。私はここまできた・・・

しかし、メルは・・・死んでしまった。

私は、何のためにここまで来たんだろう・・・

あぁ、そうか・・・

胸元に小さなメルの体をしまい楼観剣を抜いた。

「私は、この霧を止め、夏を取り戻しに来た。それだけだ。

「そう・・・季節が変わるのは運命の歯車が回るのと同じ、だから私はそれを変えるの。

貴方、矛盾してるわ。決められた運命を元に戻そうとしながら、

決められた運命を変えたいと思っている。」

「それでも貴方は運命に逆らうのかしら。

「運命とは最初から決まっているものではない、自ら決めるものだ。

だから!!

「つまらない運命に翻弄されるのよ

「歪んだ運命を元に戻す。

 

 

...

 

 

何も考えずに剣を振り、戦った。

もはや自分がここにいる意味は悪魔を倒し、夏を取り戻すことだけだった。

それが、メルへの償いである気もした。

徐々にメルの体は温度を下げ、同時に私の心も冷えていった。

冷え切った心は全ての攻撃を見通し、避ける事などたやすかった。

この程度なのか・・・

その言葉に悪魔は怒りをあらわにし、すさまじい魔力を発した。

機械のような頭は無駄のない動きで交わすと、相手の懐に飛び込んだ。

「つまらない・・・

そう言い放ち、止めをさそうとした・・・

その時、胸元に入れていたメルが僅かに動いた気がした。

――メルッ!?

手の止まった瞬間を相手は見逃さなかった。

悪魔のすさまじい攻撃に私は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

しまった・・・

形勢は逆転してしまった。

傷を負い動きの鈍った私は、徐々に押され始めた。

死んでしまったものが生き返るはずがないのに・・・

自らの愚かさに自嘲し、弱りきった体に鞭をうち、全身の気を込めた。

六道剣「一念無量劫」

相手も、これで終わりと言わんばかりに大きな光の塊を作り出した。

次第にそれは紅く染まりすべてを貫かんとする凶悪な槍を形成する。

渾身の力を込めて放った一撃、自分を貫かんと打ち出される槍。交錯する光。

槍は間違いなく私を貫くだろう。

力を使い果たした私は意識を保つことができず貫かれる前に意識を失おうとしていた。

それは、少しばかり幸せかと思った。

薄れ行く意識、痛みは徐々に消えほんのりと暖かく光に包まれていく。

人間が冥界に行くときとはこういう気分なんだろうと思った。 

―――悪くない・・・