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第一季 肌寒い夏の夜

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第一季 肌寒い夏の夜

よくしゃべる妖精だな。妖精メープルの頭についた花飾りが揺れるたびにそう思った。

元来妖精とは、陽気で楽しいことが大好きな生き物だ。

昼間に主に活動するものと思っていたが、

まさか夜までこんなに元気だとは思わなかった。

「妖夢さん、私のことはメルって呼んでくださいね――」

私はメルの話を聞きながら、あたりの様子を伺っていた

「そういえば、このあたり昼間でも真っ暗な時があるらしいんですよ。

 闇の妖怪がいるって、友達が言ってました。」

――ッ!?

先ほどからずっとメルの道案内で進んでいたため、さほど気にならなかったが

視界は狭く、数軒先の木がほとんど見えない。

「メル、どうして何も見えないのに行き先がわかるんだ。

それに先ほどから前を見ていない・・・」

少し不安になりながら聞くと、妖精のみが感じられる信号や目印があるらしく

それを頼りに動いているらしい。紅魔館は島全体が悪魔の敷地で、

多くの警備隊が監視していると聞いた。

一箇所だけ警備の少ない門があり、そこには門番がいるのだが

隙が多く忍び込むにはよい場所だと妖精の間では評判だそうだ。

また、無益な殺生は好まず見つかっても少し説教を食らう程度だと言う。

其処に行くため、まず湖の周りからまっすぐにいけるよう迂回しているという。

妖夢さんっ!!」

変わった門番だなと考えていると、突然メルが飛びついてきた。

なぜかブルブルと震えている。

「今、妖夢さんが見えなくなって、それで。どこに行ったのかわからなくて―」

なにかとてつもなく不安な思いをした面持ちだ。

あたりは漆黒の闇に包まれている。

視界と言うものがまるでなく、手元が少し見える程度だ。

先ほどきいた闇の妖怪が近くにいるらしい、

「妖精にはちょっかいを出さないんです、いつもフラフラしているだけで。

 でも、目印が見えなくなって自分がどこにいるのかわからなくて妖夢さんもいなくなって」

少し動揺したメルを落ち着かせると、周りの気配を探った。

闇・・・完全に闇に包まれた空間が広がっていた。妖精には手を出さない。

「妖怪は人を食らう・・・か

ふと気づくと、すぐそばに少女がうずくまっている。妖気も特に感じない

闇の妖怪が近くに居る、人間の少女など格好の獲物だ。

「迷ったのか。ここは―

振り返った少女からは独特の妖しさが漂っていた。

―ッ!!(しまったっ)


...

 

避けてッ!!

咄嗟に叫んだ言葉がよかったのか、引っ張った髪がよかったのか

闇の妖怪の一手を妖夢さんはかわすことができた。

叫んだ言葉が「咬まれる!!」とかじゃなくてよかったと場違いなことを考えていた

「闇の妖怪か!?

闇の妖怪ルーミア・・・大妖精様によると闇を操る妖怪、力の底は闇に包まれていてわからず、

頭のリボンに多くの力を封印されているらしい。

湖上の氷精、氷の妖怪チルノのよきライバルだと聞いている。

私は見たことが無かった。

「闇に妖気も殺気もすべて隠されていたのか。」

闇の中から、飛んでくる光線やルーミアの攻撃は回避するのはかなり大変そうだった。

近づいてきた瞬間にギリギリで交わしていく。

それは胸元で引っ付いている私には目の回る行為だとはいうまでもない。

一度反撃に手ごたえが有ったみたいだけど、

それからは妖気の刃や光線ばかりが飛んでくるようになった。

妖夢さんはわずかに焦りの表情を見せ、懐から一枚のお札のようなものとり出した。

断迷剣・・・

静かに呟きながらお札で剣をなでるようにすると、剣が光り始めた。

ルーミアの場所は一向にわからないのにどうするつもりなのだろう。

「斬ればわかる。話はそれからだ。」

迷うことなく言い放つと、正面の空間に剣を振りぬいた。

「嘘っ!?」

私は思わず声を漏らし目を見開いた。

振り下ろした切っ先からカーテンを開くように闇が晴れていく

闇の妖怪が月を背に巨大な光線を放っている最中だった。

左右から迫り来る光の壁、妖夢さんは瞬時にルーミアへと迫った。

勝負あったと思った時、目の前が暗くなった。

 

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