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前季 運命の悪戯、小さな出会い

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 運命の悪戯、小さな出会い


霧の所為で昼でも暗いが夜はわかる。

なぜか月だけは恍惚と紅く輝き、常に満月のような怪しい光を放っている。

紅い霧は上空から見ると大きな翼のような形に広がって見えた。

中心には強い魔力が発生しており、そこが発生源だろう。

幸い夜は霧が少し弱く、視界が悪くない。

「直接発生源に行っても良いが・・・」

状況がなにもわからないまま本陣に斬り込むのは危険だ。

少し離れた神社のそばの林に降り立ち周囲の様子を伺った。

ここに来るまでにわかったこと整理しておこう。

上空から見た限り霧の発生源は湖に浮かぶ小さな島だと思う。

湖に囲まれた島に攻め入る・・・

島全体が敵の陣地だとするとかなり厳しい戦いになりそうだ。

相手の数もわからないとすると―

ガサガサッ!!

草むらに気配を感じ、瞬時に臨戦態勢をとる。

妖気の方向に意識を集中させ、すぐに迎い撃てるよう楼観剣を握り締める。

バサッ!!

草むらから、小さな妖精が飛び出してきた。

あわや斬りそうになったところを踏みとどまり、妖精とぶつかってしまった。

見ると怪我をしていて怯えている。

「怪我をしているのか?」

妖精などにかまわなくてもいいのだが、怪我をしてるものを放ってはおけない。

すると、妖精が私の方を指差しさらに怯えた目で見始めた。

未熟者だなと、自嘲し楼観剣を持ち直し振り返る。

ぐるるるるる・・・・うなり声を上げ、身の丈樹木ほどある妖怪が立っていた。

知能は低く力だけが少しばかりある程度か。

妖怪が力任せに叩き潰そうと腕を振り上げた。

瞬時にその腕を根元から切り落とす。

それ以上の言葉も力も必要はなく、決着はついた。



...

 

私の声が届いた・・・

白銀の髪、真っ直ぐな瞳、一瞬であの妖怪を退治した強さ。惚れ惚れする。

無言で妖怪が逃げ去るのを見送り、私のほうをみて声をかけてくれた。

「怪我は大丈夫か?」

言葉に反応することなくボーっとみつめていると、困ったような顔をし始めた。

「す、すみません、助けていただいて。私、メープル・パルマタムといいます」

急いで挨拶をすると、忘れていた足の傷が痛み始めた。

助けてくれた人は少しあわてた様子を見せ懐から布を取り出し、小さく切りさいてから

私の足にまいてくれた。

魂魄妖夢―

それがこの人の名前、足の傷に丁寧に布を巻きながら教えてくれた。

「あ、ありがとうございます。」

妖夢さんは傷を確認すると、さほど大した事がないと判断したらしく、

「さて」と立ち上がった。

「私は行くところがあるので、これで・・・」

このような時間に行くところとはどこだろう?

話の流れに遅れないうちに聞いてみると湖上の島に行くという。

「紅魔館に、いくんですか!?」

驚いていうと、妖夢さんは紅魔館を知らなかったらしい。

チャンスだと思った。場所の案内を口実にすれば一緒について行けるかもしれない。

できるだけ、詳しくまるでそこの住民だと言わんばかりに説明した。少しの嘘を交えて

妖夢さんは熱心に聴きそこで何をするのか話してくれた。

霧を晴らし、夏を取り戻すこと。

私の心は霧の晴れた夏になったようだった。

この人と一緒にいたい。せめて助けてくれた恩を返したい。そう思っていた。

それが、危険な紅魔館へ行き世界を元に戻す。

これを運命と言わずになんと言うんだろう。

魂魄妖夢さん・・・あなたこそ約束の人です。

 

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