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第三季 紅き霧の門

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「ごめんね、チルノちゃん。

大妖精が申し訳なさそうに言うのでアタイは鼻で笑うと、大妖精の頭を軽く叩いた。

「私、判断つかなかったの。行かせて良いのか悪いのかどっちだったのかな。

「アタイに勝ったんだから行かせりゃいいのよ。スペルもひとつ上げたしね。

「あら? アレって普通に負けちゃったの?

「そんなことあるわけッ!!

フンッ!! ――と、鼻をならした。

自分のズタボロの服を見ると言い返す言葉がなかった。

「なんだか変。僕は死にませーんって叫んだら、ドッカーンって・・・

「でも、すごいよね。小さな体であんなにすごい力が出せるなんて。

 私も誰かを好きになったら、あんな力が出せるのかな。 

大妖精が何か言っているのを聞き流し、アタイは飛び立った

「あ、まってよチルノちゃ〜ん。 私、変なこと言った〜?
 
 それに僕は死にませーんって、なんか違うよ〜
。」

全く、損な役回りをしたもんだ・・・

「私は、負けません・・・・(あなたが好きだから。)」か・・・

衝撃波とともに、一気に妖精メープルの想いが伝わってきた。

ふんッ!! もう一度鼻をならすと、顔が熱くなっているのを感じた。

私だってそこまでお馬鹿じゃないって。

 

 

...

 

第三季       紅き霧の門

 

アレが、門番です。

気配を殺し門の前まで来た。

其処には赤い髪をした長身の女が目を閉じ、じっと門の前でたたずんでいた。

「相手の力量は?

わからないとメルは言った。

妖精に対しては、迷い込むことがたまにあるらしく、

侵入しても少し説教を聴かされる程度だといっていた。

言い終わった最後に気になることをいった。

「こっそりと忍び込もうとした子が居たみたいなんですけど、

 ボーっとしている子よりすぐに見つかっちゃったみたいです。」

はっきりとしないが、隙だらけというわけではなさそうだ。

どうしたものか・・・

「石でも投げてみます?」

「・・・・・・・・・・。」

馬鹿みたいな顔をしてしまったのが自分でもわかった。

メルは変な笑顔を作り、ごめんなさいと言った。

しばらくの間どうすればいいのか考えこんでいると

門の方から物音が聞こえた。

コツッ、カツン・・・コツン・・・

「メルッ・・・・?」

呼ぶと、返事がない・・・が、すぐに居場所はわかった。

私の胸に寄りかかって小さな寝息を立てていた

コツン、カツン・・・

音はやまない。

よくみると、白い小石のようなものが門番めがけて飛んでいくのが見えた。

門番は寝ているのか微動だにしない・・・。

小石の軌道を探っていくと、少し離れたところに先ほどのチルノと大妖精がいた。

なんであの二人がいるんだ・・・

わけもわからず見ていると、大妖精に気づかれたらしく

こちらを向かって小さく手を振ってきた。

慌ててしゃがみ、声を出さず馬鹿とだけ言った。

大妖精は急いで手を引っ込めチルノと一緒に門番にちょっかいを出し始めた。

痺れを切らしたのか、チルノが手のひらより少し大きめの氷の塊を作り出し。

勢いよく門番に投げつけた。氷塊は一直線に門番の顔めがけて進み・・・

アレがあたったら、今回の事件・・・楽におわりそうだと思った。

その予想は見事に砕けちる。

門番は氷塊が額に当たる一寸あるかないかの距離で、受け止めた。

わずか二本の指だけで。

「できる・・・」

 

...

 

 

それは、大きいってチルノちゃん

私とチルノちゃんは、門番のすぐ前まで来ていた。

紅魔館のまわりには警備のメイドがうようよいて、

唯一入れそうなのはこの門番の居るところだけだ。

不思議とこのあたりには他のメイドが少なくて、門番一人きりのことが多い。

私とチルノちゃんは、

「どうせ、門番の前でどうするか悩んでんじゃないの?

というチルノちゃんの一言から、門の所まで様子を見に来たのだ。

「大丈夫、いけるって。あたったらそれはそれでいいことじゃない。

チルノちゃんは、小さな氷を投げて門番の気をそらそうと・・・

単に遊んでただけなんだけど、痺れを切らしてグーより大きな氷を投げようとしていた。

「じゃ、いっくよーー。ッッッッッッおッりゃあああああ・・・

声にならない掛け声で、いつも以上に振りかぶって氷塊を投げつけた。

やっぱり受け止められてこっちに向かって歩いてきた。

「あぁ、また長い説教聴かされるよ・・・

「ま、それも仕方ないんじゃない。

なんだか、いつもよりピリピリする・・・門番の人の顔が怖い。

「何度いったらわかるの? ここは遊び場じゃないって言っているでしょ!!」

やっぱり怒られた。心なしかいつもより語気が強い気がする。

私たちは謝りながら時間を稼ぎ二人を行かそうとした。

「口でいってもわからないなら―」

門番の人は手をあげた、ビンタくらいは我慢しよう・・・

 


 

今だ!! 門番はチルノの方へ歩き始め何事か言ったあと、手を上げた。

チルノに平手を放つ瞬間、門番からでたわずかな殺気に乗じ。

私は、門を一気に抜けようと駆け出した。

カカカーンッ!!!

門に差し掛かる寸前で、苦無が目の前を横切り顔の横に刺さった。

「その苦無を一歩でも超えることは、ゆるされない」

門番は苦無を投げたままの姿勢で警告を発した。

私はクッと唸り、門番を見た。門番からは揺るがない意思を感じた。

一歩たりともとおさない――

少し見据えた後、もといた草むらに戻り楼観剣の鞘を立てた。

楼観剣の鞘には強い霊力を抑えるため、周囲に小さな結界が張るようにできている。

眠っているメルをもたれかけさせ、私は門番に挑むことにした。

この門番を倒さない限り、紅魔館には入れない・・・

私はそう感じ。紅魔館の難しさをかみ締めた。

 

 

 

手を上げるつもりは無かった。

先ほどから様子を伺っている気配を感じさせない何かに、ピリピリしていた。

だが妖精に平手を見舞おうとした僅かな殺気に乗じそいつは現れた。

白銀の髪、透き通ったまっすぐな瞳。 強い意志を感じさせこちらを見据えている。

さながら山から湧き出た水がまっすぐに落ちる滝のように清々しさと力強さを感じさせる。

だけど、その滝には虹がかかっていない。心は晴れていないのだろうか・・・

そんな詩的なことを考えていると、草むらに鞘を立て抜き身の刀をもって現れた。

その視線を正面から受け止める。まるで滝に身を打たれているようだ。

久しぶりに手ごわい相手が現れたと、少し高揚している自分を自重した。

 

 

...

 

 

キンキンキンキンキン!!

苦無をはじき、剣を振り下ろし交わされ、掌底が繰り出される。

それを交わし、蹴りを見舞う・・・

一手一手を寸でのところで交わし、受け流す。

この繰り返しだけでも何日でも続けられそうだ。

久しぶりに自分に見合った相手が現れ、私は目的も忘れ楽しんでいた。

「はぁはぁ、はぁはぁ、できるな・・・

そっちこそと門番は言い、また攻防が繰り返される。

どれくらい戦ったのかわからないが一瞬一瞬の攻防が充実していた

そんな時水をさされた。いや氷をさされたというべきだ。

何事かチルノが叫んだ跡、吹雪が吹き始めチルノはどこかに飛んで行った。

どうやら喧騒に気づかれたらしく囮になってくれたようだ。

それは戦いに終止符を打つべきときが来たということになった。

門番は、一枚の符を取り出し全身の気を集中させた。

「終わりにさせてもらうわ!!極彩颱風」

虹色の気をまとい気を込めたこぶしは輝きはじめた。

私は同じように一枚の符を取り出し楼観剣をなでる

「獄炎剣・・・業風閃影陣!!」

楼観剣は私の鬼気を受けるかのごとく、燃え盛る。

おおおおおおおおおおおおっっ!!

刹那の攻防、気と気がぶつかり合う多くの手数は必要なく一撃にかけた二人

わずかな力の差で相手を押し切ったが私自身の符も打ち消されてしまった。

力負けした相手は地面に叩きつけられ、私は受身をとりすぐさま止めを刺しに駆け出した。

「勝った!!」

 

 

極彩颱風が破られた・・・止めを刺しに迫ってきているのがわかる。

刃が振り下ろされるのが見えた。

私は目を閉じはじめた

ハッ!?

相手は、驚きとあせりに満ちた表情を表し一瞬動きが止まった。

その瞬間を逃さず私は大きく身をかわし、空を切った相手に向けて気を放った。

それは避けることなど容易いつまらない攻撃だった。

なぜか相手はよけることなどせず甘んじてうけた。

木に叩きつけられた手強かった相手は、なぜ交わさなかったのだろう。

見ると、倒れた相手のすぐ手前に鞘が突き刺さり鞘にもたれて妖精が眠っていた。

「甘すぎる・・・

 

 

わずかに見えた鞘、気づかぬうちに場所が入れ替わり、

追い詰めた場所はメルの寝ている場所だった。迷いの生じた刃は空を切り、

その隙を相手は逃さなかった、咄嗟に打ち出された相手の攻撃をよけることができなかった

よければ、メルにあたるかもしれない・・・

弾く事もできず左肩にうけ、メルの寝ているすぐそばの木にたたきつけられた。

「ここまでか・・・

門番はなにをするでもなくただ私を見下ろしているだけだった。

そのまま何も言わずに元の位置に帰っていった。

「待て!! 情けなどいらない!!

門番は振り返らなかった・・・ 

その後は喜劇を見ているようだった。

馬鹿げた大きさの氷塊が門番と一緒に門を突き破り。チルノがケタケタと笑っていると

門番が激怒して追いかけた。私はゆっくりと鞘に剣を収め、メルを抱き上げると

誰も居なくなった門を歩いて通り、敷地内に入った。

一番近くの屋敷のそばにつくころには吹雪もやみ警鐘も喧騒も収まり、静まりかえっていた。

今は自分ひとりの意思でうごくわけにはいかないか・・・

 

...