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始まりの季節
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始まりの季節 妖夢、今年の夏はまだなのかしら? 白玉楼にすむ西行寺家の姫「西行寺幽々子」様は、問うた。 例年にないひどい霧のため日光が常に遮られ、 初夏も終わりという季節なのに肌寒い日が続いていた。 「私たちは夏の日差しに弱いので、このくらいが丁度よいのではないでしょうか。」 白玉楼に住むものは皆強い日差しに弱く、夏はあまり得意ではなかった。 「そうね、でも梅雨の雨、夏の日差し、夏の夕立があって、秋の実りが得られるのよ。 このままでは多くの実りが失われてしまうわ…家の桜も枯れてしまうかもしれない。」 白玉楼の庭に咲く大きな桜は例年花をつけず、すでに枯れてしまっていると噂される。 長い間そのままになっているが今年の夏の寒さには耐えられないかもしれない。 「こんなに霧が出ているのに、ジメジメとしていなくて過ごしやすいわね。」 幽々子様は指先をこすり合わせると、私の方に振り向いた。 「妖夢・・・この霧ね、気がつかないかしら・・・ほんのりと紅いと思わない? こうして指をこすり合わせるとしっとりとしないの。まるで細かな砂を触っているよう。」 ―これ、自然の霧じゃないのよ。 |