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第五季 紅い岐路

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第五季       紅い岐路

 

長い廊下を進んでいくと、ホールがあるわ。そこに窓のない廊下に続く道がある。

そこをさらに奥に進んでいけば。窓がひとつだけあるわ。

それがレミィの部屋の目印。





昼間は鎧戸が閉まっているが夜になると開き月を見るときや夜出かけるときに使うらしい。

「ここが広間か。

長い廊下を走り抜け、ようやく開けた場所にでた。

そこは今までのような小さな窓ではなく、一面の窓、西洋風の縁側、机と、

日の光を感じながらお茶を楽しむ場所と思えた。

天井のガラス越しに月がみえる。

いつもは風流に感じる月が、今日はいやな感じがする。

恍惚と光るそれは、妖しさと不吉さ・・・なにより血を思わせるほど紅く輝いていた。

「妖夢さん、アレ・・・

メルの指差した方向には、短剣が落ちていた。

何かの罠なのか・・・そっと近づき、慎重に手にとって見た。

何の変哲もない短剣で、西洋風の装飾が施されている。

「これ、銀でできてますね。

銀・・・魔物や妖怪が嫌う破魔の力を秘めた金属だ。

「どうして、悪魔の住まう館に銀のナイフが落ちているんでしょう」

銀は人間の使うもの、悪魔を退治しにきた人間の残したものなのかもしれない。

「拾ってくれてありがとうございます。足りないと思っていましたの。」

唐突に話しかけられ振り向くと、銀の髪を首元で結んだスラリとした女が立っていた。

「・・・人間?

「えぇ、私は人間ですわ。それが何か?」

こんなところに人間? この銀の短剣はこの人のものらしい。

自分と同じ時にたまたま悪魔の討伐に忍び込んでいたのか。

「あの、ここに運命を操るレミリア・スカーレットという人がいると聞いてきたんですけど。」

メルがそう言うと、一瞬女の目が鋭くなった気がしたがすぐに笑顔に戻った。

「えぇ、おりますわ。お嬢様に何の用ですの?」

お嬢様―――!!?

「あの・・・貴方は、ここで何を?」

メルの声は私と同じことを考えていたらしく。少し震えていた。

「私は、この屋敷でメイド長兼、掃除係をしておりますわ」

しまった・・・私は今日何度目かの不覚をかみ締める。

 

 

...

 

 

離れれば跳んでくるナイフ、近づけば目にも留まらないスピードにナイフ。

この人は一体どこにそれだけのナイフを隠し持っているんだろう・・・

必死で応戦する妖夢さんの懐で私はズレたことを考えていた。

上下左右、人間のはずなのに空を飛び。何もないところでナイフが軌道を変え、

また突然ナイフが現れる。タネの全くわからない魔法を見ているようだった。

妖夢さんは跳んでくるナイフを交わし、少し距離をとった。

「幽明求聞持聡明の法!!

一枚の札を取り出し額にあてて唱えると、全身から煙のようなものが出た。

煙が集まり妖夢さんがもう一人現れた。

「勝負だ!!」

なんとなく卑怯感があるのは横において、形勢は逆転した。

跳んで来るナイフをもう一人の妖夢さんがうけ、妖夢さんはメイド長と戦う。

攻防に別れた戦術で妖夢さんは押し始めた。

力を込めた一撃を受けメイド長はやすやすと吹き飛んだ。

しかし、すぐさま受身をとり。ナイフを投げてきた。

「間合いの外にっ!!

フェイクだった。メイド長の投げたナイフを分身がはじこうとすると

目の前でそのナイフは止まった。

「・・・時は動き出す。」

弾こうとした刃は空を切りもう一人の妖夢さんは全身にナイフを受け、消え去った。

妖夢さん本人だったら同じ末路をたどっていたかもしれない。

「勝てない・・・」

妖夢さんの苦渋に満ちた声が耳に響いた。

 

 

...

 

 

「空間をいじるのが好きな人がいてね――

図書館で出会った少女が言っていた、空間を操る人。それが今目の前にいる。

この場所は相手の操る空間の中。

掌の上にいるようなもので、指を閉じればすぐにつぶされる。

時折止まったり、瞬時に動いたりするのは時間を操っているためか。

「幻在、クロックコープス」

相手が言い放つと同時に符切ると、無数の短剣が突然現れ雨のように降り注ぐ。

「天界法輪ッ・・・

剣に霊力を込め、剣風で一気に弾き飛ばす。

このままではいつか霊力が尽き短剣の餌食になってしまう。

「相手が空間、時間を操るなら、すべて切るまで!!」

幽明求聞持聡明の法が破られた時、勝てないと思った。

時間、空間を操りその手の上で踊っている自分がどうして勝つことができるのだろう・・・

そう思ったのだ。

しかし、その思いはすぐに消えた。何のためにここまで来たのか。

霧を晴らし、夏を取り戻すため。

もはやそれだけではない、胸元にいる妖精の悲しい運命を変えることができるかもしれない。

自分と出会い喜ぶメルの姿を思うと、つらかった。

輪廻のない妖精は記憶も存在もすべて消え、無に還る。

永遠の別れ・・・転生すらもない。

「メル・・・私は、負けない。必ず霧を晴らし、季節を感じ。運命を変えてみせる!!」

 

 

...

 

妖夢さんの言葉に涙がでそうになった。

妖夢さんは指を噛み懐から取り出したお札に、流れるように文字を書き一閃した。

「連続剣・・・天人の五衰!! おおおおおおおおおお!!」

「一符 界面活性斬!!

妖夢さんの全身から先ほどと比べ物にならなくらいのエネルギーと、鬼気がでていた。

「人符 現世斬」!!

交わされ、空を切った場所は蜃気楼のような揺らぎを残していく。

「人界剣 悟入幻想」

何もない空間にひびがはいり、ガラスが砕け散るように景色が変わっていった。

「四生剣 衆生無性の響き

揺らめいた景色のなか、数え切れないほどのナイフとともにあのメイド長が現れた。

「メイド秘技、殺人ドール!!

「人鬼 未来永劫斬!!

迫り来る無数のナイフ。私は圧倒されたけど、不思議と落ち着いていた。

妖夢さんは負けない。だって私と約束したんだもの、

―――負けないって・・・